日々の恐怖 7月19日 一万円分(3)
日々の恐怖 7月19日 一万円分(3)
Kちゃんの家は母子家庭で、生まれた時からお父さんはいなかったそうだ。
お母さんは夜の仕事をしているらしく、時々知らない男の人を家に連れてくるらしい。
そんな時はKちゃんとSちゃんは押し入れに入り、男の人が帰るまでジッとしていると
言っていた。
「 M君、ここが私の家、古いけど我慢してね。」
Kちゃんの家は一棟に四戸が入る平屋の文化住宅で、赤茶色い屋根瓦の汚れと外壁に
ビッシリつたう雑草が建物の年季を物語っている。
間取りは2DKで、玄関を開けるとそこがダイニングキッチン、その奥に二間が直列に
続いている。
真ん中の部屋に通された俺は、少し緊張しながらちゃぶ台に向かって正座した。
「 ちょっと待っててね、Sを呼ぶから。」
そう言うとKちゃんはふすまを開けて一番奥の部屋に入った。
「 え~、やだ。
知らない人なんか会いたくない!」
ふすまの向こうからKちゃんとは違う女の子の声がする。
きっとこの声の主がSちゃんなのだろう。
「 わがまま言わないでよ。
せっかく来てもらったんだから。
Sもゼッタイ仲良くなれるよ。」
「 え~、きっと私のこと怖がるよ~。」
「 そんなことないって!」
奥の部屋との境にはふすましかないから声がよく聞こえる。
二人はしばらく言い合っていたが、Sちゃんがあきらめたのか、小さな声で、
「 わかった。」
と言った。
「 ごめんねM君、お待たせしちゃって。」
そう言いながらKちゃんはふすまを開けた。
その時俺は、
” あれっ・・・・?”
と違和感を抱いた。
開け放たれた向こうの部屋にはKちゃんしかいない。
日々の恐怖 7月5日 一万円分(2)
日々の恐怖 7月5日 一万円分(2)
二学期に入ると隠れて文通するようになった。
一冊のノートを使って一日一回、交互に手紙を書く。
小五の男子なんてバカが服来て歩いているようなものだから、俺はノートに随分くだら
ないことを書いた。
ハマっている漫画やゲームの話、お気に入りの芸人のネタなんかも書いて、バカなりに
Kちゃんを楽しませようと一生懸命だった。
そんなバカげた手紙にも、Kちゃんはいちいち返事を書いてくれる。
けれどKちゃんが一番多く書いたのは、やはりSちゃんのことだった。
今日はSとこんなことをして遊んだとか、一緒にテレビを観ている時にSがこんなこと
言って、可笑しくてたまらなかったとか。
俺はまだ会ったことのないSちゃんに、かすかな嫉妬心を抱くようになっていた。
10月のある日、下校中にKちゃんが不意に、
「 M君、これから家に来ない?」
と、聞いて来た。
突然の誘いでも俺は反射的に、
「 行くよ!」
と応えた。
密かにライバル視していたSちゃんと会える。
返事を聞いたKちゃんは嬉しそうに、
「 よかった。
今日お母さん家にいないんだ。
これでやっとM君を紹介できる。」
と言った。
その言葉は一瞬ひっかかったが、深くは考えずKちゃんについていった。
日々の恐怖 6月29日 一万円分(1)
日々の恐怖 6月29日 一万円分(1)
小学校のころに体験した話をする。
小五に進級した春、クラスメイトのKちゃんと同じ図書委員になった。
Kちゃんは本好きな子で、休み時間はいつも何かを読んでいる。
週に一度、Kちゃんと放課後の図書室で作業する。
貸し出しの受付をしたり返却された本を棚に戻したりと結構忙しい。
最初のころは作業に必要な会話しかしなかったが、徐々に雑談を交わすようになった。
好きな本や先生の話題、ゲームとか漫画の話といったたわいもないこと。
中でもKちゃんが一番多くしたのは妹のSちゃんの話だった。
Sちゃんは二つ下で、引っ込み思案だけれど笑顔がかわいい明るい子だと言ってい
た。
SちゃんはKちゃんを笑わせるのが大好きらしく、いつも変なことを言ったり驚かせた
りして楽しませてくれるらしい。
ただ身体の具合が悪く、今は学校に通っていないそうだ。
「 へぇ~、俺も一度Kちゃんの妹に会ってみたいな。」
「 いつか家に来てね、M君も絶対仲良くなれるから。」
夏休みが始まる直前くらいには俺とKちゃんの距離はかなり縮まり、図書室以外でも
会うようになった。
ただ、他のクラスメイトにからかわれるのは嫌だったので、人目に付かない所でしか会
わない。
放課後、図書委員のない日は学校の近くで待ち合わせて一緒に帰るようになったし、
夏休みには図書館へ行って宿題をやったし、プールや縁日にも行った。
もう俺はKちゃんに夢中で、頭の中はKちゃんのことでいっぱいだった。
まだ告白はしていなかったが俺の好意は通じているだろうし、Kちゃんもたぶん俺のこ
とが好きだったんだと思う。
日々の恐怖 6月14日 ガノンドロフ(4)
日々の恐怖 6月14日 ガノンドロフ(4)
高校を卒業してからは実家を出て、東京、大阪、名古屋と都市部に住んでいた。
成人式の時に帰省して、些細なことで父親と喧嘩して以来、実家には戻っていなかった。
去年、結婚したからと久しぶりに帰省した。
当時はガノンドロフみたいに怖かった父親も、すっかり禿頭になり、小さくなって、穏やかになって
うちの奥さんに、
「 こんな男のところに来てくれてありがとうね。」
と西田敏行みたいに泣いていた。
時がたつのは本当に早い。
母親もドラクエのくさったしたいみたいにヨボヨボになっていた。
もっと頻繁に帰省しないとな、と思った。
2か月前、夢を見た。
当時の実家のリビングに俺はいた。
身体は今のまま。
夢を見ているという自覚があった。
玄関のチャイムが鳴る。
擦りガラスの向こうには人影があった。
背格好でわかる。
ドアの前にいるのは父親だ。
俺はドアを開けなかった。
この話を思い出したからだ。
2階の自分の部屋に逃げ込んだ。
チャイムは何度か鳴っていたが、しばらくすると鳴り止み、目が覚める。
すぐに母親に電話をした。
父親は今、がんを患っているらしい。
帰省したころにはすでに病院で発覚していたらしい。
心配をかけるから子供達には言うなと言われていたらしい。
年齢的にも、転移する可能性があるから頻繁に通院して経過を見ないといけないそうだ。
あれから何度か同じ夢を見る。
決意表明も込めて、ここに書いておく。
これからも絶対にドアは開けない。
日々の恐怖 6月1日 ガノンドロフ(3)
日々の恐怖 6月1日 ガノンドロフ(3)
聞けば夢の中で父親はリビングにいて、玄関のチャイムが鳴るので玄関へ向かうと玄関の擦りガラスに赤いジャンパーが見えたらしい。
そのジャンパーはいつも新聞の集金のおばちゃんが着ていたものだ。
玄関を開けるとおばちゃんが立っていて、いつもなら気さくに挨拶をしてくれるのだが、夢の中では、
「 ○○さん・・・。」
と父親を呼ぶだけで、いつもと雰囲気が違ったようだ。
夢の中なので、父親は現実でおばちゃんが行方不明になっていることは思い出しもしなかったため、
「 どうも~。」
と挨拶をして、集金分を支払おうと財布を取り出したところ、おばちゃんが突然、
「 私、今○○トンネルの横にいるのよ。」
と、泣きそうな顔で言ってきたそうだ。
父親はぎょっとしてそのまま夢から覚めた。
○○トンネルは島内の山の中にあるトンネルで、車で30分程度の場所にある。
父親はそのまま出勤した。
テレビをまた見ようかと思ったが、そのまま寝てしまった。
次の日、部活から帰ってくると父親はすでに帰宅していて、電話でなにやら話し込んでいた。
電話を終えると制服に着替えなさいと言われ、2階の部屋で制服に着替えると父親が黒いスーツ姿で待っていた。
おばちゃんが見つかったらしい。
亡くなっていたそうだ。
車でおばちゃんの家に向かうと、すでに町内の人たちが喪服姿で集まっていた。
父親の後ろをついていくと、普段ニコニコしている旦那さんが顔を真っ赤にして涙を流していた。
町内のおっさんたちの話だと、どうやら首つり自殺をしていたらしい。
詳しい経緯は不明だが、○○トンネルの横の倉庫の裏。
それを聞いた時の父親の表情は今でも覚えている。
神妙な感じ。
でもガノンドロフみたいではなかった。
なぜ父親の前に現れたのか、なぜ自殺したのかなどは分からないし、15年以上前になるから調べようもない。
あのあと旦那さんはどこかに引っ越したのか、いつのまにか見なくなった。